2024/1/13【 第60全国大学ラグビーフットボール選手権大会 】vs明治大学 マッチレポート
2024/1/13【 第60全国大学ラグビーフットボール選手権大会 】vs明治大学 マッチレポート
第60回全国大学ラグビーフットボール選手権大会・決勝 対明治大学戦
1月13日(土)・国立競技場
○帝京大学34-15明治大学●
《BRIEF REVIEW》
ついに今シーズン最後の試合の日がやってきた。3連覇がかかる大学選手権決勝。対戦相手は、対抗戦2位の明治大学。お互いFWにプライドを持ちつつ、BKにも決定力を持つという似たタイプの対決。意地と意地とがぶつかり合う熱い戦いが予想された。
だが、この日の試合には予想以上の悪天候という要素が加わる。それまで明るかった空が、キックオフ直後から一天にわかにかき曇り、冷たい雨の中でのプレーを強いられることになった。
ゲームは開始早々、帝京ボールのセンタースクラムとなる。これを押し込みながらボールを出すと、FB山口が前方へキック。ボールはインゴールに入り、相手のインゴール・ドロップアウトとなる。
この返しのボールをCTB戒田がキャッチし、さらにHO江良が前進。ラックからSH李-SO井上-LO本橋-CTB大町-WTB小村-WTB高本(とむ)と渡り、高本が相手ディフェンダー3人をかわして先制トライを奪う(7-0)。
その後、攻められる場面もあるが、SH李が何度も好タックルを見せ、止める。
10分過ぎ頃から雨はみぞれに変わり、激しさを増し、お互い、滑るボールの奪い合いとなる。20分過ぎ、雷鳴が轟き、この時は試合続行となるが、再度、雷鳴が鳴るとともに稲光が見え、22分37秒で試合は一時中断となった。
再開の判断も難しく、二転三転する中、約55分後の午後4時40分に再開すると決まった。
相馬監督自身が雷で試合が遅れるという事態を経験したことがあり、再開時刻が二転三転することも、再開決定後に10分程度のウォーミングアップ時間が取られることもわかっていたという。
また、ロッカールームではなく、室内練習場に椅子を並べて待機し、いつもと違う環境を作り出すともに、再開決定後、すぐにウォーミングアップができるように準備した。
試合再開直後、LO尹のジャッカルでチャンスを作る。ラインアウトからうまく攻め、LO尹が抜け出し、トライかと思われたが、ここはTMOにより、その前のラックでノックオンがあったと判定され、トライが取り消される。
だが、直後の27分、ラインアウトからモールを押し込み、HO江良が持ち出してトライを奪う(14-0)。
中断の時間をうまく使って再開後すぐに加点できたが、その後は雪がさらに激しさを増したこともあり、ミスも加わって、前半終了間際の35分、39分と立て続けに失点。14-12で前半を折り返した。
後半も大粒の雪が混じるみぞれがさらに激しく振り続けるが、帝京は落ち着いて得点を刻んでいく。4分、8分とFB山口(泰)が連続でPGを決め、20-12と点差を広げる。
お互い、滑るボールで攻守の入れ替えが頻繁に起こる中、攻められても帝京は厳しいタックルと素早い戻りで、相手の前進を許さない。
相手の50:22でピンチになりかけるも、HO江良の好タックルとNo.8ダウナカマカマのナイス・セービングでターンオーバー。さらに、相手のキックでピンチになりかける場面では、CTB大町が必死に戻ってタックルし、タッチに押し出す。
20分、相手の攻撃を耐え、こぼれたボールにWTB小村が反応し、前方へキック。PR津村がセービングでキープし、ラックから、SH李-SO井上-CTB戒田と渡り、戒田がディフェンスをかわし、そのまま抜け出してトライ(27-12)。
23分にPGを返され、27-15とされるが、帝京は攻め手を緩めない。直後に、FB山口(泰)がPGを狙うが、ポールにはじかれ、結果、ゴール前でのマイボール・ラインアウトとなる。このラインアウトからモールを押し切り、LO尹がトライを奪ったかに見えたが、ここもTMOでラインアウトでのオブストラクションを取られ、ノートライとなる。
その後も、激しい雪は降り続き、滑るボールにお互い苦労しつつも、激しいぶつかり合いが続く。
刻々と時間が過ぎ、37分。スクラムでペナルティを得て、ゴール前5mでラインアウト。モールを押し込み、HO江良が抜け出してトライ(34-15)。
このリードを守り切り、ノーサイド。落雷の可能性による55分間の中断と吹きすさぶ吹雪の中、帝京が34-15で勝利し、3年連続12回目の大学日本一の座を勝ち取った。
《COLUMN》
―― コロナ禍での分断からOne Heartへ ――
大学選手権決勝は帝京が34-15で勝利し、3年連続12度目の大学日本一となりました。落雷の可能性による約55分間の中断、さらには雪の降る中での試合という過酷な条件でも、帝京は自分たちのプレーをし続け、栄冠を勝ち取ることができました。
今年度の4年生は入学時からコロナ禍に見舞われ、入学式もなかったという学年です。「ソーシャル・ディスタンス」が強調され、会話をすることすらはばかられる環境で過ごさざるを得ませんでした。
寮に入ることもできず、コミュニケーションはリモートのみ。6月前後から段階的に少しずつ入寮となりますが、練習はABチームとCDチームを完全に分け、できる限り接触を避けるようにしていました。
仕方がないこととはいえ、結果として、どうしても学年間のコミュニケーションが希薄になり、ABチームのメンバーとCDチームのメンバーとでは「仲が悪いわけではないが、腹を割って本音を語り合える仲でもない」という関係性になってしまいました。
これは学年が上がってもずっと抱え続ける課題となりました。
一つの転機は、彼らが3年生の時の夏合宿。学年で自分たちの課題を語り合い、「大切な話なのに、お互いに相手に気を使いながら、よそよそしく話している」ということに気付きます。
この関係性のまま4年生になってしまうのはまずいと考え、彼らが辿り着いた答えは「いきなり仲良くなろうと言っても難しいので、まずはみんながこのチームを好きになるような行動をしよう。それによってやがて自然に仲良くなっていけるのではないか」というものでした。
そして生まれたスローガンが「One Heart」。心を一つにしようというものです。これは4年生だけでなく、チームのスローガンとなっていきます。
江良主将は「メンバー外のチームメイトたちがグラウンドに降りてきて、彼らの顔を見た時、チームはOne Heartになれたと実感した」と述べています。
コロナ禍での分断という苦しい時期を乗り越え、最後にOne Heartで優勝を勝ち取った彼らを心から祝福したいと思います。
(文/木村俊太・写真/志賀由佳)