雨畑硯製作体験記

富士川町にある峯硯堂本舗さんを訪問し、甲州雨畑硯の製作体験をさせていただきました。
甲州雨畑硯とは山梨県の伝統工芸品で、雨畑石と呼ばれる黒色の粘板岩を用いて作成される、日本の代表的な硯の一つです。

甲州雨畑硯の概要

1690年(元禄3)に鰍沢村の雨宮孫右衛門(あまみやまごうえもん)が身延山参詣の途中に富士川支流早川河原で黒一色の石を拾い、硯にしたのが甲州雨畑硯の始まりと言われています。
雨畑硯はいらい、中国硯に比肩する良硯として「和端硯」とも称され、文人墨客の間にもてはやされてきました。
現代においても、「竹林硯」の皇室献上が行われたり、大阪万博「未来へつなぐ日本の書~空・海・時を超えて~」に出店したりするなど、高い評価を得ています。

甲州雨畑硯の特徴として、鋒鋩が細かく、鋭く均一で硬いため、墨の粒子を細かく、早く磨ることができます。
また、石の密度が高いため、硯の水の吸収が少なく、墨が粘りづらいです。
特に「雨畑真石」と呼ばれる希少な石で作成された硯には、ねずみ足のような細かい模様が見られ、貴重で良質な硯となります。

硯制作の体験

今回の訪問では、彫りから仕上げまでを体験させていただきました。
  彫りの作業では、のみを使い分けながら海、陸といった硯の細部を整えていきます。
のみを肩で抱え込み、適度に力を込めて、均等になるようにさまざまな方向から彫り進めていきます。

肩の力を使って彫る様子

次に、砥石を用いて磨きを行います。
粗い砥石から徐々に細かい砥石へと変えていき、表面を丁寧にならしていきます。

砥石を使用した磨き作業

水に濡らしながら砥石をかける

硯としての質感を出すために、墨液を硯面、硯側、硯陰に、漆を硯側と硯陰に塗布していきます。
この塗布することを「繕い」といい、繕いしたものを布で拭いて整える「おとし」とセットで行われます。

 

この工程を経ることで、硯はつややかな黒色になります。
漆の仕上げ方によって、落ち着いた質感や光沢のある質感を出すことができます。
白はカエデ、黄はレモン、茶色はオリーブ、クルミ、赤はチェリーウッド、ピンクはユーカリなどを用いるそうです。

繕いの様子

以上にて、硯の完成です。初めての硯制作体験ということもあり、陸の部分の彫りや硯面の均一さには課題が残ってしまいました。

完成した硯

実際に作業を体験することで、石の質感の違いや硯を作成する伝統技術を体感的に理解することができました。
今回、非常に貴重な機会を用意していただいた峯硯堂本舗さん、誠にありがとうございました。