綜説 不安症の遺伝子研究:全ゲノム関連解析(GWAS)による 最新知見と精神疾患・性格特性との遺伝的関連
不安症(Anxiety Disorders)は高頻度にみられる精神疾患であり,遺伝的素因の解明が進められている。本稿では,双生児研究や家族研究による従来の知見から,全ゲノム関連解析(genome-wide association study:GWAS)による最新の成果に至るまで,不安症の遺伝的基盤について概説した。初期の研究では,日本人および欧米人を対象としたパニック症のGWAS が実施され,遺伝的背景の探索が進められてきた。また,ポリジェニック・スコア解析を通じて,日本人と欧米人の間で不安症に関わる遺伝的リスクの一部が共有されることも示されている。近年では,精神疾患ゲノムコンソーシアム(PGC-ANX)による大規模GWAS メタ解析が行われ,12 万例を超える不安症例と73 万例を超える対照群を対象に,58 の有意なSNP と66 の関連遺伝子が同定された。さらに,うつ病(rG=0 . 91),PTSD(rG=0 . 71),神経症傾向(rG=0 . 70)との強い遺伝的相関が報告され,不安症の病態は他の精神疾患と共通する遺伝的基盤を有することが示唆された。特に神経症傾向(Neuroticism)は,他の精神疾患と関連する非特異性を有しつつも不安症の発症リスクを反映する中間表現型(エンドフェノタイプ)として注目されており,精神疾患のスペクトラム的理解や新たな治療標的の解明に貢献することが期待される。
綜説 マイクロサージャリーを用いた血管吻合における新しい潮流とわれわれの取り組み
日本は1960 年代後半に母指の再接着や皮弁移植術を世界に先駆けて報告し,それ以降はマイクロサージャリーを用いた血管吻合術の最先端国の一つである。その後もさまざまな筋皮弁が,さらには皮弁採取部の機能温存を目指した穿通枝皮弁が開発され,これらの皮弁を用いた外傷後や腫瘍切除後の再建術が行われている。加えて近年ではリンパ浮腫のためのリンパ管静脈吻合のような,欠損再建とは別の用途にもマイクロサージャリーは用いられるようになり適応は現在も広がっている。それに応じて繊細な手術に適した器具や高性能顕微鏡や細い縫合糸といったデバイスも次々に開発されている。そしてマイクロサージャリーはいまや決して珍しい術式とは言えなくなったが,一方では未だに特有の難しさは存在している。更なるマイクロサージャリーを安全に行うための工夫として,近年ではロボットを用いたマイクロサージャリーも海外にて導入されつつあり,現在日本でも未認可ではあるが独自の機種を開発中である。われわれも,ロボット手術などへの周辺技術として血管吻合用ピンセットに外視鏡をとりつけたシステムを開発しており現在も研究中である。本論文では,このようなマイクロサージャリーを用いた血管吻合術が開発されたことにより従来の臨床にいかなる変化が生じたのか,その変化した臨床に対してマイクロサージャリー自身がいかに姿をかえていったのかについて述べる。
原著 非骨傷性頚髄損傷におけるASIA運動スコアとJOACMEQの関連
背景・目的:
非骨傷性頚髄損傷ではASIA 運動スコアが良好域に集積する一方,QOL や疼痛評価が不十分となり得る。本研究の目的は非骨傷性頚髄損傷において最終観察時のASIA 運動スコアとJOACMEQ スコアの関連,およびASIA 運動スコア満点例におけるJOACMEQ スコア分布を明らかにすること。
対象・方法:
単施設後ろ向き観察研究。2018-2021 年に受傷後3 か月以降でJOACMEQ を実施した非骨傷性頚髄損傷36 例を対象。最終観察時のASIA 運動スコアとJOACMEQ スコアとの関連を解析,および上下肢合計ASIA 運動スコア満点例のJOACMEQ スコアについて箱ひげ図を作成して分布(中央値・四分位範囲・外れ値)を視覚化した。
結果・考察:
ASIA 運動スコアはJOACMEQ の上肢・下肢機能スコアと正の関連があった。ASIA 運動スコアは上肢・下肢共に高値に集積し天井効果を呈し,ASIA 運動スコア満点例のJOACMEQ スコアは機能・QOL・VAS 全てのカテゴリーで広い分布を示した。ASIA 運動スコアの天井効果により臨床的差異が反映されにくい一方で,患者報告指標が当該差異を弁別し得ることを示唆する。
結論:
非骨傷性頚髄損傷の治療評価でASIA 運動スコアとJOACMEQ 上肢・下肢機能スコアに関連があった。ASIA 運動スコア満点の症例におけるJOACMEQ のスコア分布は多様であった。